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広島高等裁判所 昭和56年(ツ)2号 判決

上告人 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 岡田俊男

同 関元隆

被上告人 乙山春夫

右訴訟代理人弁護士 山田慶昭

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由は、別紙上告理由書記載のとおりである。

上告理由第一点について

原判決は、上告人と亡甲野太郎が昭和四三年一一月ころ、上告人一家は太郎の戸籍に入籍し、太郎累代の墓守をする、太郎夫妻の死亡後太郎の遺産は上告人の所有とする等の内容を有する契約を締結し、同月二五日太郎と上告人夫婦が養子縁組の届出をしたこと、昭和四五年五月二三日太郎が上告人に対し太郎の財産の全部を包括遺贈する旨の公正証書による本件遺言をしたこと、同年四月ころから太郎と上告人一家は同居するようになったが、太郎の酒癖の悪さその他の不品行が原因となって不和を来たし、昭和四六年三月一一日協議離縁をし、別居するに至ったこと等の事実を確定したもので、右は当事者の主張及び挙示の証拠に照らして是認することができ、その間に採証法則違反その他の違法は見いだしがたい。

そして、右確定事実によれば、前記契約は前記養子縁組を基本的条件として太郎の財産を上告人に対して死因贈与することを約したものであり、本件遺言は右契約による死因贈与を、公正証書遺言の形式を採ることにより、包括遺贈の形に改めたものに過ぎず、遺言書作成当時、太郎と上告人夫婦は既に養子縁組の届出を済ませ同居していたため、遺言には特段の条件を示さなかったのであるが、太郎としては飽くまで養子縁組を遺贈の前提と考えていたものと解するのが相当である。してみると、前記協議離縁は本件遺言と両立せしめない趣旨の下になされた行為であることが明らかであるから、本件遺言は民法第一〇二三条二項により撤回されたものというべきである。

原判決の説示は、若干不明確な点もあるが、結局は右と同旨に帰するものと解されるので、原審の判断は正当であり、論旨は採用できない。

上告理由第二点について

所論の管理権について、本件記録を精査するも事実審において主張されたものとは認められず、従って、原判決がその点に関する判断をしなかったのは当然であって、原判決に所論のような審理不尽、理由不備の違法はなく、論旨は採用することはできない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 胡田勲 裁判官 土屋重雄 大西浅雄)

〈以下省略〉

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